写真の色 正解はどんな色?

写真の色 正解はどんな色?

前回、RAWで撮影してPCなどで色合いや明るさを調整する。というコラムを書きましたが、そこでどんな色に編集したらよいのか?という疑問が出てきます。そこで今回は写真現像の正解とは何かを考えてみます。

青被り

まず水中写真の特徴を考えてみます。「写真を撮る」という面では時間が限られているという事を前回書きましたが、撮影した画像に絞り込むと最大の特徴は「青被り」にあると思います。ダイビングのライセンスを取得している方なら勉強したと思いますが、水中では深度が増す、距離が離れるほど青色が強くなります。水が緑や赤の波長を吸収し青の波長の光が目に届くからです。ストロボやライトを使わずに青被りを軽減するにはホワイトバランスを調整する。という方法がありますが、深度が変わるたび、水質が変わるたびに調整しないと肉眼と同じ様な色味の仕上がりになりません。

コンデジなどで「水中モード」が選べるカメラがありますが、ちょうどいい色合いになる時もあれば、赤や青や悪目立ちし気持ち悪い色味になる時もあるのは、深度や水の色がその時々で変わるので想定しているホワイトバランスや色味のチューニングから外れてしまうからです。OM SYSTEMのTG-6には数種類の水中モードが装備されています。水中写真撮影にはありがたい機能ですが、実際使ってみるとちょうどいい色合いになることが少ないです。潜る場所や季節など条件が様々なので、水中モードの設定では対応しきれないのが実情です。

最近のカメラはオートホワイトバランスの精度が上がり、陸上の撮影ではほとんどカメラ任せで違和感なく撮れる様になりました。しかし、室内や森の中、夜景などでは肉眼とカメラの写す色がズレてくることがあります。AIなどのディープラーニングでかなり賢くなってきていますが、水中を含め特殊な環境ではもう一歩という感じもします。また、人の目の構造にカメラの設定を難しくしている要因があります。

 

色順応

人の目は青っぽい環境(水中)やオレンジ色の環境(朝焼けや夕焼け)にしばらく居ると環境色に目が慣れてきます。水中に入ったばかりの時は青みを強く感じても時間が少し経つと青みをそれほど感じず見慣れてしまい、陸上で普段見ている色合いに近い色に見えてきます。これを「色順応」といいます。人が色慣れするのに対し、カメラは機械なので色慣れしません。水中で写真を撮ると、見た目と写真の色がズレてしまうのは「色順応」も原因のひとつです。

 

目の構造

人の目は「かん体」という明暗を判別する組織と「すい体」という色を判別する組織を使って色や明るさを認識しています。色に関しては赤、青、緑の3色をそれぞれ判別しそれを脳内でブレンドすることで約100万色の色を見分けているそうです。しかし、全ての人が3つのすい体を持っているわけではなく、2色型や4色型といわれる人が居ます。それぞれきっちりと別れている訳ではなく、2色型寄りの3色型。3色型寄りの2色型。というように境界はあいまいで、ひとによって色の感じ方は全く同じでは無いようです。色覚異常と診断される方が日本人の男性では20人に1人。女性では500人に1人いるそうです。その一方、一般的な人より色の感度が高くより繊細な色の違いを見分けられる4色型の方が居ます。4色型は遺伝の関係で女性にしか存在しない様なので羨ましい限りです(笑)。このように人によって色の感じ方は様々で、一緒に潜っているバディやガイドと同じ色を感じているとは限らないのです。

 

メーカーによる色の差

報道のニコン、人肌のキヤノン、オリンパスブルーなどフィルムカメラ時代からメーカーによって色合いに違いがあります。これは写真哲学の違いであってどのメーカーの色合いが自分の好みに合うかを知る必要があります。SIGMAやTAMRON、TOKINAといったサードパーティーのレンズは純正と色合いが違う、といったことがあります。私はCANONの一眼を使っていますが、純正レンズでも色ノリが良くこってりした色、あっさりした色といったレンズが有ります。コーティングの違いやレンズ硝材の違いで差が出てきます。

水中ハウジングではレンズポートのコーティングや材質によっても色合いが微妙に変わることがあります。ドームポートにはガラス製とアクリル製があり、材質の違いも写真の色味に影響を与えています。

RAWで撮影すれば撮影後に色合いを調整することが出来ますが、好みが合わないと調整に時間が掛かったり、思い通りの色にならない事があります。撮影技術だけでは解決しない問題なので作例などを見て自分好みのメーカーを検討するのも大切ですね。

現像の方向性

深度や水質によって色が変わる水中。カメラによっても色合いが変わる。人の目も色順応によって青被りに慣れてしまう。さらに色覚にも個人差がある。いったいどんな色が正しいのか分からなくなりますね。

写真には記録色、記憶色、期待色という言葉があります。記録色とはカメラが撮ったそのままの色(これも設定で変わってしまうのですが・・・)記憶色とはあの時はこんな色合いだったよなぁ~という記憶に残っている色で印象色とも言います。一般的に実際の色より鮮やかな場合が多いそうです。期待色とはこんな色だったら良いのにという色。カメラメーカーでは富士フィルムがこういった色を出すのが上手ですね。

RAWで撮影した写真を現像調整する際、記憶色に近づけることが良い現像でしょうか。私は目的によって現像の方向性を変える必要があると思っています。撮影時から目的によって撮り方が違うのですが、現像に限って言えば大きく3種類の方向があると思います。

  1. 図鑑や学術的に使用する資料
  2. フィールドレポート(現地ガイドのブログなど)
  3. 写真作品

図鑑や学術的に使用する資料

図鑑や資料などは他の種類と比較したり、成長ステージや地域差を見比べる必要があるのでなるべく同じ条件で撮影した方が良いです。自然光がベースになる場合、色味がバラバラになってしまうためストロボや高演色のライトで撮影し、色合いを揃える必要があります。黒抜き写真は青被りがほとんど無いので条件を揃えるのに適しています。写真家のDoubilet David氏がナショナルジオグラフィックに掲載した写真では小型の写真スタジオを水中に持ち込んでウミウシを撮影していましたが、資料としても写真作品としても画期的だったと思います。

広告写真や映画などではグレーカードカラーチャートを使ってカラーコレクション(色合わせ)をし、環境に合わせたカラーグレーティング(環境光に合わせた色被り)を行います。資料として色の条件を揃えるにはこうしたツールを使用することも精度を高めるためには必要ですね。

フィールドレポート

その日の海の色や天候を提示したいので、記録色や肉眼で見た色合いに合わせる様に現像することが説得感のある写真に仕上がります。期待色に仕上げてしまうと、一緒に潜ったバディなどから「こんな色だった?」「別の海??」と言われてしまいます。透明度の低い浮遊物の多い海ならば、その感じも映しこむ事がレポートとしての価値を上げる様に思います。(ストロボの当て方が悪く浮遊物だらけの写真にしてしまうのとは違います!)

写真作品

作品として撮影する場合は、撮影者のイメージを反映できれば良いので仕上げの方向は自由です。記録色に仕上げるのも良いしこうだったら良いなぁという期待色。現実にはありえない様なファンタジックな仕上げでも、撮影者が表現したい方向に現像すれば良いのです。ただし現実と掛け離れた仕上げにした場合はそれが作風であるということを示さないと、肉眼で見られるものと勘違いされるのでご注意を。

私は水中写真を撮って出しで使うことはほとんどなく、多くの作品は印象色と期待色の間くらいの色合いに仕上げています。作品によっては思い切りファンタジックな方向に振ってしまいますが、レンズ選択、カメラの設定、ライティングが基本で現像ソフトはそれを補うために使用しています。SNSなどではアップロードした写真が自動的に彩度が上げられたり、明るめになってしまうことがあるので、彩度を下げたり明るさを再調整することが多いです。スマホやPC、プリントの場合は紙質によって色合いが変わるので基準を作るのが難しいのですね。私の好きな写真家の植田正治さんは撮影からプリントまで全体を「写真する」と言って楽しんでいたようですが、撮るだけでなく人に見せる最後の工程まで写真して楽しみたいですね。